発音練習の使い方
前書き
この解説書はディープラーニングで発音を練習するための説明書です。発音練習がなぜ大事かを理解すると、英語学習が促進されます。
目次
教材の使い方
この教材と発音練習の効果的な進め方を説明します。
1.1. 発音練習の目的
ここでの発音の目的は良い発音にする事もありますが、その良い発音とは何を目的にするか明確ではありません。ここではネイティブを真似るディープラーニングで英語を習得するために、良い発音とは最適化された音、つまり発音が楽な調音方法です。発音が楽であれば、表現を覚えるのが楽になり、英語力も向上するからです。
1.2. 進め方
言語音には基本の音がないと言う前提で発音練習をします。特に基本がありませんから発音練習する順番はそれほど大事な要素ではありません。ランダムに練習されても何の問題もありません。
2. 発音とは
英語の発音練習では多くの場合に発音記号から始まる場合が多くあります。本当に英語の音声には発音記号のような音が並んでいるのでしょうか。
2.1. 音声は音のストリーム
英語や日本語の言語の音声の捉え方は大変に重要です。科学的に分析すると英語の音声には発音記号(音素)のような音が規則正しく並んでおりません。音が連続的に変化しているだけです。音素が聞こえるのは学習した錯覚とも言えます。
英語の音声は音の紐のようなものですから、音の紐の形を作るのが発音です。
音声にはつまり正しい音が存在しませんから教える事も、チェックすることもできません。世界的な有名な言語学の本で、Linguisticsと言う本があります。この本は、いつ読んでも内容はぜんぜん古さを感じさせません。
日本人で英語を教える立場にある方には読んでおいたほうが良いと思います。なぜならば、著者たちは、過去のLinguisticsに関する文献をかなりの数読みこなしていて、そのエッセンスを本書で伝えようとしているからです。
本書は、実質20年近くかけて書かれたと考えても良い、Linguisticsの入門書です。The University of Arizonaで教科書として使用して、先生や学生からも多くのフィードバックを取り入れて改訂を続けています。
Linguisticsと言うタイトルですが、実質はEnglishの分析を行っています。他の言語がどうなっているかの例として日本語が英語と対照的に取り上げられています。
この本の中で音声を、continuous streams of soundと表現しております。日本語にすれば連続的な音のストリームとでも訳せるかも知れません。音声は音のストリームなのです。
言語学の権威ある本はcontinuous streams of soundと言っているのですから、音声が音のストリームであるは紛れもない事実です。
では日本語の発音を我々日本人はどうやって覚えたのでしょうか。これは非常に簡単で聞いた音を真似したのです。そして自分で聞いてフィードバックを得て矯正や修正をしたのです。
音声は連続的に変化する音であるために、音素を学んで並べる学習方法は効果的でありません。音声を学ぶ唯一の方法は日本語の習得と同じように聞いた音を真似る事です。そしてフィードバックを得て、修正と矯正をすることです。
これはディープラーニングとも呼ばれる脳の効果的な学習方法です。まわりの正しい発音を真似る事によりだんだん正しい発音に近づいていきます。正しい音が存在しないのですから、通じる発音に近づいていきます。
発音記号に忠実に発音すると非常に発音し難いのはそのような音を並べる事が発音ではないからです。日本語もそうですが、英語も子供が発音を覚える時は聞いた音を真似します。日本語でも発音の覚え方は同様です。
2.2. 手続き記憶で覚える
発音練習はネイティブを真似、フィードバックで矯正と修正をします。ネイティブを真似ると言う事はネイティブの音の特徴を真似る事です。
そのためにはネイティブの音声を聞き終わってから真似る事です。聞きながら真似ると自分の発音の状態を聞く事ができません。
ネイティブを真似て、フィードバック矯正する学習を繰り返すと手続き記憶として自動化され長期記憶に保存されます。このように忘れないように覚える事が大事です。
2.3. 音を繋げる
英語の発音で最も大事な事は言語音が音のストリームであると言う事です。犬の鳴き声は我々日本人にはワンワンと聞こえます。英語ネイティブにはバウワウと聞こえるようです。すると犬の鳴き声を真似るなら、ワンワンやバウワウと何度練習しても自然な音になりません。
音声の音の紐は繋がっています。だから発音が楽になります。
何よりも連続的に音を変化させることです。つまり音を繋げる意識が必要です。
犬の声がワンワンと聞こえるのはそのように学習をしたからです。欧米人に犬の鳴き声が聞こえるのはバウワウと学ぶからです。
英語の発音もcatを発音するのであれば、カタカナのキャットのような発音をするのではなく、ネイティブの発音を真似る事が大事です。
聞こえてように発音すると、発音記号のような音をしてしまう傾向にあります。
2.4. 自動化
発音練習は良い発音にするためにするものです。しかし、英語音声には音素(発音記号)が規則正しく並んでいる訳ではありません。すると何が良い発音かは非常に説明が難しくなります。
規則正しい音が並んでいなくても、デタラメの音が並んでいる訳ではありません。理解できる音を作るのが発音の目的です。
それでは理解させる音とは何かといえばネイティブのあの発音です。あの発音は自然であり、理想的な発音です。
あのネイティブを真似てフィードバックで矯正する練習を繰り返す事により手続き記憶で自動化がされ長期記憶に保存されます。つまり発音練習しても単に自然な発音を目指すだけではなく、忘れない発音のプロセスを習得する事が大事です。
英語を話す事はいろいろな話題を並べていきますから、話している時には発音に注意を向ける事はできません。そのためには意識しなくても自然な発音ができるように、話す前に自動化しておく必要があります。
2.5. フィードバックで矯正
自然なネイティブの音を真似る場合に最も大事な事は自然な音の特徴を真似る事です。そして個性はそのままで良いのです。しかし、現実には何が英語の特徴で自分の個性かはその境界はありません。
フィードバックでは自分で正しい評価軸を持ち、絶え間ない検証を続けていくことが大事です。
手続き記憶として自動化をして意識をしなくても正しい発音ができるようにするので、その発音は自然な発音でなければなりません。英語の発音を自然にするためには何度も自分の発音とネイティブの発音を比べて修正と矯正する必要があります。
そのためにはネイティブを真似て、ネイティブらしい音にする事です。そのためにはフィードバックでネイティブらしい音になっているかをチェックします。
録音してフィードバックとする事も可能です。後から何度でもチェックできます。最初は録音をお勧めします。
しかし、現実的には録音してその度にフィードバックで矯正するのはかなり面倒です。リアルタイムでフィードバックを生かすには発音している時に自分の発音をリアルタイム聴覚モニターでチェックする事です。
シャドーイングではこのフィードバックの矯正ができません。聞き終わってから真似る学習方法が最も効果的です。
2.6. Rの調音
藤村靖氏の「音声科学言論」の143PにRの調音の解説があります。
内容は非常に難しく、まだ全体をパラパラと見ただけです。この本の中で感激の写真をみました。それはアメリカ人にpourと発音させ、rの音で保持してもらい、それを顔の横からMRIで映像にしたものです。
私はサイトや本でいろいろの図や写真をみていますが、初めてのものです。その映像は舌の使い方は全部が違うもので、舌の形状がまちまちなのです。
舌先が上に上がっている人もいれば、舌先が下のままの人もいます。舌が平べったい人もいれば先の尖った人もいます。
横から見た形は全部違うにも関らず、聞いた人は同じ音に聞こえるのです。音声学で教える音素の教え方は間違いとは言えませんが、それほど拘る事はない、拘る意味が無いと言えます。
舌の使い方は全部が違い、舌の形状がまちまちです。
横から見た形は全部違うにも関らず、聞いた人は同じ音に聞こえるのです。
各自がそれぞれ自分の得意な方法で最適化をしています。
ネイティブを真似る方法なら自分で最適化された音と、自分好みに調音でき、そしてネイティブのような発音が可能になります。
3. ネイティブを真似る
言語音が連続的に変化する音のストリームです。つまり正しい音素が規則正しく並んでいません。その発音を良くするためには、発音の良い人を真似て、フィードバックで矯正します。だからネイティブを真似るのです。
3.1. アクティブリコール
英語音声は連続的に変化する音のストリームです。その音を真似る時は聞いた音声を思い出すようにします。これはアクティブリコールと呼ばれる記憶を強化する学習です。
発音練習は発音を良くするためですが、何よりも覚えないと良い発音にはなりません。
連続的に発音する必要があります。日本語では音を切る傾向にありますから、自分の英語が日本語のような響きの場合はその連続性を注意してください。
息を繋げると音にメリハリがつけ難くなります。その息は唇とか舌で息を止めてください。その時には息が止まる事になりますが、息を横隔膜で止めると英語らしい音の特徴がなくなります。
3.2. 速度とリズム
速度
音の特徴を真似るのですから全体の音の形が大事になります。全体の形を決めるのが速度ですから、速度も真似てください。自分が発音する時には自分が最適に感じる速さにしますが、まず同じ速度で真似てみてください。
そして自分のなりの速度に変えてください。大事な事は自分の個性を生かしながら、ネイティブのような音を作り出す事です。
リズム
英語は連続的に変化する音のストリームですがそのリズムは日本語より明瞭です。子音が多く、強弱も日本語より強くなります。
ネイティブの発音を真似るためにはこのリズムを真似る事は大事です。全体的なリズムを真似てから、細かいリズムを真似ます。
自動化をしますから、このリズムも最終的には意識をしなくても自然なリズムが刻めるような練習が必要です。
3.3. パターン補完
記憶を呼び起こすとき、多くは何かがきっかけとなります。脳は情報の断片から記憶全体を復元します。このプロセスはほぼ自動的に行われており、パターン補完と呼ばれています。
過去の記憶が多ければ多いほど、また経験が豊かであればあるほど、うまくパターン補完ができるようになります。
単語を覚えるよりは表現として覚える方が使う時には実践的です。
パターン補完は全体の音を覚えるための思い出しです。
3.4. パターン分離
記憶がさらに積み重なると、今までわからなかった微妙な違いに気づくようになり、見分けの能力が芽生えきます。このように小さな差異を区別する能力はパターン分離と呼ばれます。
これはよりネイティブの音の特徴を分離して発音が良くなります。そして同時に最適化された調音を学びます。これは特徴を抽出するAIのディープラーニングと同じ学習方法です。
情報を長期記憶に移動させるには、精緻化(elaboration)が必要です。これには、自分がすでに知っていること既存知識に新たな情報を関連付ける必要があります。
これはネイティブのような自然な発音のための思い出しです。
4. 最適化
ネイティブを真似る場合に大事な事はネイティブらしい音を真似る事ですが、自分にとって発音し易い調音方法を選ぶ事です。どれほどネイティブらしい発音でも自分が発音して難しい調音であれば、それを反復して自動化するのは不可能な事です。
自分がトライをしてなるべく発音し易い、自然な発音を模索してください。発音が楽だと言う事は調音する時に無駄がないので最適化されています。
4.1. 自然な発音
最適化されていると言うのは簡単ですが、何が最適化は簡単に判断できません。しかし実際に発音した時には無理のない自然な音が理想です。英語には正しい音素が並んでいる訳ではないので、無理をしてまで明瞭にする必要はありません。
4.2. 個性は生かす
発音ではネイティブの自然な音の特徴を真似ますが、個性はそのまま生かします。その意味では完コピではなく、特徴を真似ます。そして同時に自分の個性はそのまま生かす必要があります。
5. リスニング
発音とリスニングは深い関係があります。その発音とリスニングの関係を説明します。
5.1. 発音できても聞き取れない
良く発音ができると聞き取れると言う人がいます。それは事実ではありません。言語音は連続的に変化する音のストリームです。
正しい音素が規則正しく並んでおりませんから、発音できたかどうかはネイティブも分かりません。ネイティブを真似て理解されるだろうと思う音を発音しているだけです。
発音した時の筋肉の動きを覚えているから、発音できると聞き取れると言う人もいます。それもありえません。
発音を自動化して覚えているのは、ネイティブのような音の作り方です。その音を作り方は連続に音を変化されているだけです。必要な音を作っているのではなく、音を連続的に変化させているだけです。
発音ができても聞き取れる訳はないのです。
5.2. リスニングは音の特徴の照合
英語の音声認識は記憶にある音と、聞いた音の、音の特徴の照合です。英語話者が「掘った芋穿るな」と言う音声聞くと“What time is it now?”に聞こえるのは全体的な音の特徴が似ているからです。
音素ベースなら20%も合致しないのです。
リスニングは音の特徴の照合ですから、発音練習する時にはその音を覚える必要があります。発音ではその調音方法を覚えてしまうため、その音も確実に覚えることができます。
その音を覚えているからリスニングができるのです。
音の特徴を真似るとネイティブのような発音なりますが、同時にその特徴を覚える事でリスニングができるようになります。