ネイティブを真似る

ネイティブを真似る

わたしたちは日々学習を行なっています。試験問題の答えを解いたり、人を想い出したりできるのは、何が最適解であるかを過去の経験や記憶から導き出たり、または意味を理解していて、我々は答えを出力します。

それでは言語を含めて脳が学ぶと言う事はどのような事なのでしょうか。

1.学ぶとはまねぶ

一般的な学習の定義としては、「知識を脳で記憶すること」「勉強することそのもののとりくみ」となりますが、本質的には、意味を理解し、記憶し、再現性のあるアルゴリズムを構築することというところまでが学習と言えるのではないでしょうか。

学ぶの語源は“真似ぶ”であり、特に言語の場合、脳は真似る事で学びが促進されます。

日本の教育も文科省がアクティブラーニングを提唱しています。それは従来の先生が教えるよりは、各自が学ぶ方がより効果的な学習ができるからです。

アクティブラーニングとは主体的・対話的な深い学びと定義されています。それは先生の教える受動的な教育よりは、自発的な学習の方がより、効果的でかつレベルの高い学習ができるからです。

2.形式知

人間が学習する知恵には2つの種類があります。

一つは化学や物理や数学などの公理や定理等の形式知です。これはその理論を理解して、納得して学習します。

形式知は明示的知識とも呼ばれ、文字や図を使い明確に説明する事が可能です。

その公理や定理も多くの試行錯誤から発見されていますが、その公理や定理が理解できれば、ゼロから体験して繰り返す必要はありません。

しかし、その仕組みを理解して、忘れずに覚える必用があります。

この形式知の記憶は陳述記憶の意味記憶とし保存されます。

形式知は充分に納得する事により論理的に覚える事ができます。

3.暗黙知

もう一つの知恵が暗黙知です。暗示的知識とも呼ばれています。

しかし、人間の持っている知恵でできるけど文字で説明できない知恵があります。それは一般的にはスキルと呼ばれるものです。

多くの人は自転車に乗れます。しかし、その乗る方法を文字で説明する事はできません。自分の子供であっても自転車に実際に乗って、何度も練習して覚えてもらうしかありません。これが暗黙知です。

言語で説明ができない、その理由は基礎とか、基盤とか、ルールとか、基本的な要素が存在しません。暗黙知を学ぶためには、とにかく実際にやってみるしかないのです。

非陳述記憶として、手続き記憶で自動化され長期記憶に保存されます。

暗黙知は教える事ができないので、学習自身が自ら学ぶ必要があります。

4.英語(言語)は暗黙知

言語の基本は音声であり、その音声言語は暗黙知です。ネイティブは発音が良く、表現も豊富なのですが、話す事はできてもそれを教える事ができません。

日本人だって日本語が話せてもどうすれば日本語が話せるようになるかを説明できません。

日本語や英語の言語は暗黙知であるからです。

言語は文法と語彙を基本とする、体系的なものではありません。日本語も英語も文法のようなルールが作られてから、表現が発達した訳ではありません。

子供が文法を学ぶ前に正しい言葉が使えるのは、言語は達人を真似て多くの表現を覚えるだけで習得できる暗黙知であるからです。

全ての言語は多くの表現が生れ、そして良く使われる表現だけが残りました。そして文法と呼ばれているのはその後に発見されたに過ぎません。

言語は多くの表現が集積された事例基盤のシステムなのです。

英語でも、日本語でも例外が多いのはそのためです。

「俺はウナギだ」と言う日本語があります。

文法的に英語で直訳するとI am an eel.となります。

もちろんそれは間違いで、“私の食べたいものはウナギだ。”と言う意味です。

日本語では「は」は主語を表す格助詞ですから、「俺は」は主語となるはずです。しかし、「俺はウナギだ」は文法の説明ようになっていません。

日本語も文法が基本ではなく、日本人がどう使うかでその意味が決まります。大事な事は単語毎に文法的に英語にして良くないと言う事です。

言語は文法を基盤に機械的に作文できるものではなく、使われている表現の意味を理解して、そのような同じ場面でその表現を使う必要があります。

5.ディープラーニング

私は長い事通訳として英語の現場を歩いてきました。ずっと長い事英語をやってきたのですが、英語をいろいろ練習すればするほど、ネイティブは発音記号通りには発音をしていないと、職人の勘のようなものが働いていました。

10年程前から、言語音は連続的に変化している音のストリームだと確信しました。そうすると真似るしかないと思っていました。

言語の音声には音素が並んでいませんから、音素を基盤とした練習をしても、自然な発音ができないだけでなく、その音も聞き取れません。

言語音は音のストリームです。その音のストリームを学ぶ方法が、ネイティブを真似てフィードバックで矯正と修正をするディープラーニングです。

実際に真似ているのは音素ではなく、音のストリームの音の特徴を真似ています。

ですから真似るのは口の形でも、舌の動きでもありません。真似るのは音の動的変化です。

つまり全体的な音の特徴です。

発音はその音の動的変化を作る事であり、リスニングは記憶にある音と、聞いた音の動的変化の特徴の照合です。

6.達人を真似る

しかし、音声が連続的に変化する音のストリームであるならば、どうやってその音を学習して、どうやって認識しているかが説明できませんでした。

しかし、2016年の始めにグーグルのAlphaGoのニュースを見ました。囲碁の人工知能のAlphaGoが自ら達人を真似て学んでチャンピオンに勝ったと言う報道でした。

その達人を真似て自分で学ぶ方法は人間の脳の学習方法であり、ディープラーニングと呼ばれていました。そのディープラーニングは達人を真似て、フィードバックで矯正したと説明してありました。

その時、人間の音のストリームの言語習得や音声認識の仕組みがやっと科学的に理解できたと思いました。言語の習得は達人(ネイティブ)を真似るディープラーニングで、フィードバックで修正します。

反復練習をするので手続き記憶として自動化され長期記憶に保存されるのです。これが言語の学習だと分かりました。

音声認識はその覚えた音と、聞いた音の、音の特徴の照合である事が理解できたのです。

脳は一生成長する器官ですから、言語習得は基本的に母語も第二言語も、子供も大人も、臨界期の前も後も同じです。

私の職人の勘でやっていた、ネイティブを真似る方法がなんで効果的か、科学的に説明できるようになったのです。

自転車に乗る、言語を話す、囲碁、将棋等は全てが暗黙知です。できるけど、どうすれば良いかは説明できません。実際にやってもらい、体験して覚えてもらう以外に方法はないのです。

7.脳は真似る事に長けている

瀧靖之氏の“脳が忘れない 英語の「超」勉強法”の説明では次のようになっています。

「脳のしくみ」を利用すれば何歳からでも英語は話せる

英語を話せるようになりたと誰しもが一度は憧れることではないでしょうか。さらに今年は東京オリンピック開催の年でもあるため、英会話への関心がより一層高まることが予想されます。しかし、大人になってからの英語学習は何から始めたらよいのか迷う人が多いといいます。

そこで本書では、そんな大人たちに合った脳医学的に正しい英語学習法を紹介。たとえば、脳は「真似をする」ことに長けているため、まずは音楽の歌詞や映画のセリフ、英会話の先生が話す英語をどんどん真似していくこと。

それが、文法を学び直すよりも大人の英語習得には近道なのです。著者自身も、30歳を過ぎてから本格的に取り組み、英語習得を達成したといいます。